海外ニュース エルダーのためのテック・アイ
フォーカス 「エイジング・トゥデイ」より
もっと詳しく・関連情報 スマートシルバーズ連盟

    

 



 ハッピー・エルダー株式会社は、ASAから翻訳掲載の許可を受けて、ASA会報・AGING TODAY「エイジング・トゥデイ」から、興味深い記事を紹介します。










AGING TODAY, XXVIII, PAGES 11&12, September-October 2007
Copyright(C) 2007 American Society of Aging, San Francisco, California;
www.asaging.org
PDFファイルでもご覧いただけます
  1. 脳の健康に必要不可欠な5要素
  2. 人間の脳  〜健康的なライフスタイルを実現するための新フロンティア〜
    <ポール・デビッド・ナスバウム博士の講演より>

脳の健康には、以下の5要素が必要不可欠です。

1. 社会との関わり
人は社会とつながりを持ち、自分に合った方法で他者との交わりを保ち続けることが望ましいとされます。孤立した生活を送る人は、認知症発生リスクが高いとの調査結果が出ています。別の最新調査でも、孤独感がもたらすストレスが血流に悪影響を及ぼし、認知症リスクが高まることが判明しました。

2. 運動
人間の脳は、心臓の鼓動一回で送られる血液量の25%を必要とします。調査により、毎日の散歩、エアロビクス、ダンスなどの運動で、脳の健康を維持できることが明らかになりました。運動によって脳の血流が促進され、脳の健康が保たれるのです。

3. 知的刺激
子供のころから、人間の脳は精神的な刺激を求める傾向があります。語学(手話を含む)、読書、執筆、パズルやボードゲーム、コンピューターを使った知能トレーニング、旅行など、新しい物事を学ぶとIQが向上し、脳の健康に好影響を及ぼすとの調査結果が公表されています。何かするべき目標がたくさんあると、人は一生懸命努力をします。新しく難しいチャレンジが、大脳皮質への刺激となり、脳の容量を増やすのです。

4. 栄養
栄養脳神経学の分野は、日々発展しています。脳の50%が脂肪からできており、オメガ3脂肪酸に富んだ食品(魚やクルミなど)や抗酸化物質(ビタミンA、C、E)が脳の健康維持に効果的です。また野菜や果物にも、同様の効果があります。加工食品の摂取を減らし、過度の脂肪分やトランス型脂肪酸を避けること、毎日のカロリー摂取量を減らし、食事を腹八分に抑えることを専門家は勧めています。

5. 精神的安定
もっとのんびり生きましょう!刺激が強すぎる環境におかれた動物は脳の発達が遅いとの調査結果があります。原因はストレスが動物の脳に悪影響を与えたことで、人間にも同様の影響が見込まれるそうです。毎日の祈りや読経、宗教的行事への定期的参加、瞑想や心のリラックスの実践が、ゆったり安らかな気持ちと脳の健康維持につながります。


人間の脳  〜健康的なライフスタイルを実現するための新フロンティア〜

 神経心理学臨床医ポール・D・ナスバウム博士はこのたび、「アメリカ加齢協会(ASA=American Society on Aging)2007年度グロリア・カヴァナ賞」を受賞しました。受賞発表は、ASAと加齢に関する国民会議(National Council on Aging)のシカゴ合同会議にて行われました。
 以下に紹介する文献は、シカゴ会議での博士の受賞講演から抜粋したものです。

 ナスバウム博士はペンシルバニア大学ピッツバーグ医科大学神経科学科非常勤助教授で、近著に「健康な脳を保つ生活〜自分の人生物語を忘れないために」があります。 *原題 “Your Brain Health Lifestyle: Preserving Your Life Story” (Tarentum, Pa,: Word Association Publishing 2007)
 書籍に関する問い合わせ先 81−(800)−827−7903
 ナスバウム博士ウェブサイト www.paulnussbaum.com


<ポール・デビッド・ナスバウム博士の講演より>

 私は、人間の脳が世界最大の神秘、もっとも優れたシステムと考え、十年以上にわたって全米で脳に関する講演活動と執筆活動を続けてきました。人の現在と未来を定義づける脳は、きわめて重要な存在です。それにも関わらず、その仕組みがほとんど知られていないことに大きな矛盾を感じます。理由はいろいろありますが、人類文化の足どりを見るかぎり、脳の研究が重視されなかったことが根底にあるようです。最近はブーマー世代の高齢化に伴って米国文化が変わりつつあり、脳への関心が高まる傾向にあるのは喜ばしいことです。

脳の可塑性

 齧歯類や霊長類(人間を除く)の脳の形成と機能は、環境によって左右されることが科学的に明らかにされています。人間の脳で新しい神経細胞を作る(ニューロン新生)能力についての文献が初めて出版されたのは1998年でした。新しい神経細胞が発見されたのは側頭葉中心部の海馬部分で、記憶を司る系統として最重要箇所にあたります。この発見は、人間の脳に「可塑性」が備わっているとの学説に基づきます。人の脳はダイナミックに再生を繰り返し、生涯にわたって形作られるという説です。

 脳に「可塑性」があるということは、これまで長年にわたって信じられてきた人間の脳の定説、すなわち幼少期を除くと新しい細胞を生成する能力はなくなり、一定の限られた能力しかないという考えに反論するものです。「可塑性」を研究すれば、新しい神経細胞の生成、脳の健康維持への鍵が見つかるかもしれません。

 これまで西洋文化は人間の脳に着目することがなかったので、私達は身体の健康と脳の関係について考えたことがありませんでした。ごく最近まで、心臓が人間の体の中心で、存在の根幹だと考えられていました。しかし脳が人間の思考、感情、運動神経、さらには生命そのものの中心であることを示す新発見が相次ぎ、従来の考えが変わりつつあります。

 動物の研究を参考に見てみましょう。良好な環境を作る要素が、「社会との関わり」、「運動」、「知的刺激」の三点であることが既にわかっており、多くの科学者が動物の脳に構造的・機能的にポジティブな効果をもたらすことを立証しています。人間を対象とした研究でも同傾向の結果が見られ、これら三要素は人間の脳の健康維持にも重要だと言えます。

五大要素

 人間の脳健康に必要なこれら三要素に加え、私は「精神的安定」と「栄養」も大切と考えます。合わせて5つの要素(社会との関わり、運動、知的刺激、精神的安定、栄養)が、健康な脳を維持する生活の中核を成します。ここで強調したいのは、健康な脳を維持する生活とは年齢に関係がなく、脳の発達時期も年齢に関連がないということです。脳の健康維持は、一生かけて積極的に行うべきだというのが私の持論です。

 毎日新しいことや難易度の高い課題に挑戦し、豊かな環境に身をおくことで、いわゆる「脳の蓄積量」が増加していきます。「脳の蓄積量」とは脳に集積される神経細胞の量のことで、量が多ければ神経変性疾患(アルツハイマー症やその他の認知症)の発生時期を遅らせることも可能です。生存中はまったくアルツハイマーの症状がなかった人が、死後の解剖で初めて患者だったと判明した実例があるように、「蓄積量」が多い人は脳疾患の発病時期が遅くなるようです。

 脳が健康ならば、自分の脳と行動に自信をもって生きることができます。同時に、脳健康のための変化を自分で意識するようになります。以下、脳健康の目安となる基準です。

  • 脳の重量は、平均2ー4ポンド(908−1816g)
  • 脳が必要とするのは、心臓の鼓動一回で送られる血液量の25%
  • 脳の50%以上が脂肪分
  • 脳に新しく難易度の高い刺激を与え続けること

高まる脳への注目

 脳が持つ潜在能力が科学的発見を通じて明らかになると、米国文化そのものが脳健康に注目し、理解を深めるように変わってきました。健康に高い関心をもつブーマー世代に牽引され、今後アメリカでは個人も社会も行動が変わっていくでしょう。すでに変化の兆しとして、脳健康に関するマスコミ報道、知的刺激を与える新製品、生涯学習プログラムの増加と充実、脳健康の推進活動に対する資金投入などが挙げられます。

 実際にもっと大きな変化が見られるのは個人レベルかもしれません。人々は自分の脳という奇跡のような存在に、真剣に興味を持ち始めています。脳の基本について説明すると、何千人もの人々が熱心に耳を傾けています。人が自分の行動を変えるのは、変えることの理由と利点を理解したときだけです。万歩計をつけ始めた、苦労して食生活を改善した、といった体験談を聞くのは嬉しいものです。アメリカ人は健康なライフスタイルのための情報を待ち望んでいるので、健康維持のための時間や労力や出費を惜しみません。この勢いは、脳健康にも広がっています。

 生涯にわたって健康な脳を積極的に維持することは、有意義な人生を送るために欠かせません。楽しく、実践的な作業でもあります。八百屋の店頭やレストランのメニューを見ると、脳健康によい食べ物が紹介されていますし、学校では脳健康を推進するカリキュラムが採用されています。脳健康センター、携帯機器、コンピューターソフトなども普及しています。最終的に私がめざすのは、脳健康が国民的関心となり、家庭でも職場でも健康管理のひとつとして定着することです。

 人にとって最大の宝、それは自分自身の人生の歴史であり、人生史を作ってきた数々の経験ほかなりません。人は記憶力が衰えて思い出をなくすことを何より恐れています。私は人生の思い出をずっと持ち続けられるように、人々を応援していきたいと思っています。かけがえのない思い出をなくさないために、脳健康を積極的に維持していくことが何より重要です。若い世代に語り伝えなければならない大切な経験を、私達ひとりひとりが持っているのですから。
印刷用PDFファイル







ナンシー・オルドリッチ

AGING TODAY, XXXVIII, PAGES 5&6, January-February 2007
Copyright(C) 2007 American Society of Aging, San Francisco, California;
www.asaging.org
PDFファイルでもご覧いただけます
  1. 認知力の研究プロジェクト「CDC脳の健康推進イニシアティブ」
  2. 脳の老化現象
  3. 主な研究ハイライト

1.認知力の研究プロジェクト「CDC脳の健康推進イニシアティブ」

 保健所など公共保健機関が推進するキャンペーンで、「ソファをおりて、体を動かそう」といった呼びかけを、見かけたことはありませんか。これまで気にとめていなかった人は、別の観点から専門家の意見に耳を傾けてみるとよいかもしれません。

 体をアクティブに動かすことで心臓血管の危険因子が減少し、同時に脳の健康も維持できます。脳の認知力を維持するために、さらに有効な方法があるようです。

 「歳をとると知的能力が衰えるのは避けられない」というのが、従来の固定観念でした。ところが、この長年にわたる考えが間違っていたことが、最近明らかになったのです。

 研究結果を見直したところ、認知力を維持するためには生活スタイルの変革が効果的だとわかり、公共保健機関が注目しています。この分野の研究はまだ十分とは言えないものの、体重・血圧管理、適度な運動、地域社会との関わりなどを取り入れた生活が、脳の健康維持に役立つことが報告されています。すでに多くの人が、体と心の健康のために始めていることばかりです。

 「心臓にとってよくないことは、脳にもよくないことになる。」とジョン・ホプキンズ医科大学認知神経科学科 マリリン・S・アルバート学部長は言っています。

健康な認知力とは

 「認知が健康であるとは」の統一定義は、まだ存在しません。全容を説明するため、研究者たちが知恵を絞っている段階です。なかでも最近の出版物で、米国国立健康研究所 (1)ほか大学研究機関が参加するイニシアティブCEHP(認知力と感情の健康推進プロジェクト)(2) が、積極的な「認知力の健康」の定義を述べています。

 「健康な認知力とは、単に疾病がないという状態ではない。認知力の『多面構造』そのものが、維持され、発達を続けていくこと。」(CEHP分析委員会ヒュー・H・ヘンドリー委員長)

 「そうした認知力の『構造』があってこそ、高齢者の社会参加、目的意識の継続、自立、身体機能の回復などが可能になる」と、ヘンドリー教授は説明しています。同教授はインディアナ大学加齢研究所の精神医学教授で、教授が率いるCEHPチームは、2006年1月アルツハイマー協会機関誌(3) に「アルツハイマー症と認知症」と題する論評を発表しています。

 認知障害とは、記憶力、言語理解力や会話能力、物事を認識する能力の問題と絡み合っています。認知力の低下は、加齢に伴う衰えのほか、軽い認知障害、そして認知症の患者に見られます。症状はそれぞれに異なり、必ずしも特定の疾病の進行段階とは限りません。認知力を維持している高齢者の多くにも、情報処理速度の低下、軽い記憶障害といった症状が見られることは事実です。

 興味深い話をご紹介しましょう。認知症でなかった高齢者の脳を病理解剖すると、アルツハイマー症や認知症患者と同じ病変が見受けられる場合があるそうです。なぜ微細な脳の変化の影響を受ける人と受けない人がいるのか、その理由はまだ解明されていません。一部の研究者は、教育や教養、社会や余暇活動への参加などが、認知力の『蓄積量』と関連があると見ています。たとえば、「神経学と神経科学の最新報告書」 (4)2004年9月号で、N.スカーミアス氏が次のように述べています。

 「認知症に関与する病理変化が引き起こる際、認知力の『蓄積量』が能力低下の歯止めとなると思われる。また高学歴の人ほど精神的刺激を求める傾向があると、アルバート氏が指摘しているが、過去の学歴ではなく、精神面でアクティブであり続けることが大切ではないか。」

 国立老化研究所(5) の研究によると、認知症や似たような症状を招く要因が約10項目あるそうです。精神的苦痛、身体的疾病、投薬、栄養障害、社会的・文化的制約、アルコール依存症などで、なかには改善できる項目もあります。

認知力の健康維持

 「明らかになってきたのは、高血圧と糖尿病が後年になって認知症を引き起こすリスクを高める可能性が高いこと。さらに、運動不足、社会への不参加、高コレステロール、喫煙なども、リスク要因となる」と、慢性病予防・健康促進国立センター(6)成人地域健康部門 疾病管理予防センター健康管理高齢化研究部のデービッド・サーマン医師は説明します。研究者たちは、社会参加や地域との関わりが重要だと信じていますが、この分野の研究はまだ十分とは言えません。

 「認知力の健康維持には、運動と社会参加、そして心臓血管と密接な関係がある食生活、これらが極めて重要だということははっきりしている」と、サウス・カロライナ大学加齢研究所研究所(7) ジェームズ・N・ラディツカ所長は述べています。これは、2005年6月に開催された「認知症予防国際会議(8) 」(アルツハイマー症協会後援)の「認知と感情の健康プロジェクト」のテーマに取り上げられました。

 「心臓疾患のリスクは、同時に認知力低下のリスク」と述べるのは、前述インディアナ大学ヘンドリー教授です。「高血圧症は認知力低下を招く可能性が高いので、高血圧の治療は認知症予防につながる。」

 ヘンドリー教授は、次の説も述べています。「様々な生活スタイルを分析したところ、認知力低下の予防策としてもっとも有効なのが運動との結果が明らかになった。」しかし、他の科学者は、この説を特定するにはデータがまだ十分でないと言います。

 さらにヘンドリー教授はCEHPの研究に基づき、うつ病と心理的要因に何らかの関連があると示唆します。精神面のサポートや社会ネットワークを通じて、うつ病やストレスを予防・軽減することで、認知力低下を予防できるそうです。しかし一方で、「健康的な生活を送っていても、認知力が低下することがある」と、同教授は警告します。

 心臓、そして脳にとってよい食生活を送ることは大切ですが、栄養と認知力の関連性は複雑すぎるので、はっきりとした結論を導きだすことは難しいと、多くの科学者は見ています。ラディツカ氏によると、「心臓の健康のためによい生活と食生活が、栄養面で認知力に何らかの関連があるということしかわかっていない」そうです。

公共保健機関の役割とは

 「認知力の健康維持に公共保健機関が携わるのは、今がよいタイミング」と、サーマン医師は言います。「認知力の低下を招く条件と要因について、私たちは理解を深めたからだ。特にブーマー世代が高齢化を迎える今、その重要性をますます強く認識している。もうひとつ重要なことは、予防手段がわかってきたことだ。」

 「私たちは次の段階に進みつつある。NIHや他の機関の研究から得た知識を、地域社会での実践に移していっている。こうして、アメリカ人の日常生活を変えていきたい」と、CDC(9) (疾病管理予防センター)健康管理・加齢研究部門リンダ・A・アンダーソン主任は言います。

 前述のサウス・カロライナ大学ラディツカ所長によると、「心臓や血管疾患の典型的要因は、認知機能の低下に関連するということが明らかになってきた。そして脳疾患としてもっとも有名なアルツハイマー症と血管疾患に関連がある可能性も出てきた。」

 研究者たちは、動物を使った研究によって生活スタイルが脳に与える影響のメカニズムをつきとめました。マウスを使い、栄養管理された食生活、規則正しい運動、脳に刺激となる活動などの条件を変えて、実験を行っています。

ブーマー世代の意欲を引き出す

 では、ブーマー世代が心臓や血管疾患のリスクを減らすための意欲を引き出し、定期的な運動や社会活動に携わるにはどうすればよいでしょうか。公共保健機関が発信するメッセージは、特に目新しい内容でないにも関わらず、実際には大勢の人が注目しています。ASA (全米加齢協会)がインターネット上で発信する健康促進情報「よく生きる、長く生きる」に、次の文章があります。「今後予測される高齢者の増加、さらに65歳以上の成人の88%が少なくともひとつは慢性疾患を抱えている事実をふまえ、高齢者の運動不足はもはや個人の問題ではなく公共保健の課題となっている。」

 CDCが作成したこのウェブサイト(www.asaging. org/cdc/index.cfm)の目的は、高齢者に関わる専門家を対象に、認知力・うつ病・そのほか脳の健康についての教育情報を提供することです。ウェブサイトには、75歳以下の女性の2人に1人、男性の3人に1人が、まったく運動を行っていないとの結果が掲載されています。

 健全な認知力を維持するための運動は、どの程度の頻度・内容・時間が必要なのか明らかではありません。しかしながら、ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動、あるいは有酸素と筋力トレーニング運動の組み合わせにより、認知力が向上することは明らかです。

 CDC栄養・運動部門デビッド・ブラウン行動科学上級研究員は、公共機関が提供する健康プログラムで高齢者の運動を推進することができると言います。ひとりひとりの関心や必要性に応じた幅広い種類の運動プログラムを提供し、なおかつ安全面のサポートも行えば、高齢者は自分の運動能力への自信を取り戻してもっと体を動かすはずです。

 「こうした活動には地域のサポートが欠かせない。データに基づく指導を行えば、運動量を効果的に増やすことができる」と、ブラウン研究員は述べています。

 「地域の公共機関が先導して、高齢者の意識向上キャンペーン、運動施設へのアクセス改善、地域内の運動への公的サポートを実施するべきだ。さらに、個人の行動や生活パターンの改善に向けた戦略を立案し、実際に運動に取り組む際のアドバイスやサポートを行うとよいだろう。」

 ブーマー世代は、定年後の様々な計画を持ち、第二第三のキャリアに就く人も多いため、特に運動に対する意識づけが必要です。アルツハイマー症協会医療科学部門ウィリアム・シーズ副部門長は、次のことを強調します。「自分の夢や計画を実現させるためには、認知力の健康が不可欠。皆さんの世代が直面する最大の危機、それは長生きをしてアルツハイマーを発症する人が多いことかもしれない。」


 ナンシー・オルドリッチは、メリーランド州シルバースプリング市「エイジング・オポチュニティーズ・ニュース(10)」 編集者。本稿はASA疾患管理予防センターのメディア・プロジェクトの一環で、ウィリアム・F・ベンソン氏がプロジェクト・マネージャーと編集委員を兼任。完全版(各団体の連絡先や出典を掲載)は、ウェブでごらんいただけます。www.asaging. org/media/cdc.cfm

2.脳の老化現象

 通常の認知力の衰えと、軽度な認知機能障害や認知症はどう違うのでしょうか?

 加齢に伴う通常の認知力の低下は、脳の縮小と神経細胞の活動の変化が原因だというのが、科学的見解です。こうした衰えは認知症とはまったく別のもので、日常生活や社会性を損なうことはありません。多くの高齢者は、軽い衰えにうまく適応・対処しながら毎日の生活を送り、社会性を維持しています。

 「高齢者の認知力低下は、ある特定の認知プロセスに限られていることが、多くの研究によって明らかになった」と、インディアナ大学加齢研究所ヒュー・C・ヘンドリー教授は述べます。

 「言語的認知力は損なわれないのに、特定の語群が思い出せないといった症状は健康な高齢者にも見られる。認知機能の一部の領域では、老若の差がまったくない。」

軽度の認知機能障害

 神経細胞が死滅するに伴い、軽度の認知機能障害(MCI: mild cognitive impairment)、すなわち認知障害や記憶障害が表れる場合があります。MCIの患者数はアルツハイマー症の3〜4倍で、同年代に比べて記憶力が低下しているにも関わらず、言語、理論的思考、問題解決、車の運転などの能力があまり損なわれないのが特徴です。MCIの高齢者は日常生活を普通に送ることができる一方で、会計や経理、行事の運営、意思決定などができません。MCIにかかっているかどうか、連続的な神経心理学テストで診断できるとヘンドリー教授は言います。MCI患者の認知力の衰えは、時間の経過とともに表れるからです。

 MCI患者が全員、必ず認知症に移行するとは限りませんが、他の成人に比べてリスクが高いことは事実です。65歳以上のMCI患者の約40%が、3年以内に認知症を発生したという調査報告もあります。

 脳細胞がたくさん死滅しないと、認知症は発生しません。認知症は単独の病気を指すのではなく、知的社会的機能や日常生活の低下をきたす脳障害が複数組み合わさった状態のことです。記憶、言語、認識、論理的思考、判断といった能力のうち、2つ以上が欠落すると、医学的に認知症の診断が下されます。

 原因として、脳脊髄液が脳にたまる正常圧水頭症、甲状腺機能異常、特定のビタミン欠乏などがあります。高齢者がうつ病になると、認知症と似た症状を呈する場合もあります。アルツハイマー症協会の推測によるアルツハイマー症患者は全米450万人。人口調査に基づく予測では、2050年までに患者数が1200万〜1600万人に増加する見込みです。

 アルツハイマー症協会のルウィン・グループ (11)が2004年に実施した、米国の高齢者向け医療保険制度「メディケア」の分析調査によると、65歳以上の人口が13%に満たないにも関わらず、アルツハイマー症が受給対象の34%を占めています。(ナンシー・オルドリッチ執筆)

3.主な研究ハイライト

高齢者の脳の健康について、最近の主だった研究を集めました。

  • ウォーキングなどの運動を取り入れた生活によって、認知機能を維持。
    R.アボット調査、J.ウーヴ研究。「米国医療協会発行学会誌」Journal of the American Medical Association (JAMA) 2005年9月22/29日号より。

  • 肥満とアルツハイマー症や認知障害との関連性。
    M.キヴィペルト、「神経科学の記録」(Archives of Neurology) 2005年10月より。

  • 社会との関わりが認知力の衰えを防止。
    米国加齢研究所(National Institute on Aging)の資金で運営されているシカゴ健康加齢プロジェクト(Chicago Health and Aging Project)より。

  • 若いときをすごした家庭や地域の社会・経済水準の高さが、高齢になってからの認知力と関連。ただし、アルツハイマー症発生率や認知力の低下率との関連性は見られない。
    R.S.ウィルソン、「加齢の実験的調査」(Experimental Aging Research)2005年10月、および「神経科疫学」(Neuroepidemiology)2005年6月より。

  • 記憶力トレーニング、詳しくは「自立して活発な高齢者向け先進的認知力トレーニング(ACTIVE: Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly)」を臨床試験で使用したところ、最低でも5年間効果が持続。
    F.W.アンヴァーザグトほか、JAMA2006年12月20日号より。

  • 喫煙によるリスク増大、特に知能低下や認知症の原因になるという最近の報告。
    米国神経科学障害・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke)によると、喫煙によってアテローム動脈硬化(動脈内に血小板が蓄積される)やその他の血管のリスクが高まり、同時に認知症のリスクも増大。(ナンシー・オルドリッチ調べ)

1 NIH: National Institutes of Health
2 CEHP: Cognitive and Emotional Health Project
3 The Journal of the Alzheimer’s Association
4 Current Neurology and Neuroscience Reports
5 National Institute on Aging
6 National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion
7 University of South Carolina Office for the Study of Aging
8 International Conference on Prevention of Dementia
9 Centers for Disease Control and Prevention
10 Aging Opportunities News
11 Lewin Group
印刷用PDFファイル








本文中の( )は、日本の読者のために当社で補足した言葉です。

PDFファイルでもご覧いただけます

 年齢を重ねても、心身ともに元気で豊かな毎日を過ごしたい・・・。
いまアメリカでは、エルダー世代向けの新しい試みが次々に行われています。

 「マインド・アラート 心いきいき賞」1は、全米エイジング協会(ASA)2とメトライフ基金3が合同で主催し、高齢者の「心の健康」を促進する優れた活動に授与される賞です。このたび、2006年度の受賞が決定しました。
 「マインド・アラート」とは、「いきいきとした明るい心」という意味。この賞は、高齢者の記憶認知力を向上させる研究プログラム、製品、道具などを対象とします。エルダーが体だけでなく心も溌剌と人生を過ごすための新しい取り組みであること、そして後進のお手本となるような研究内容であることが、選考基準となっています。 今年3月アナハイムで受賞式が行われました。

 今年2006年は、「エルダーと子どもが共に過ごすケア施設」、大学のエルダー向け生涯学習プログラムである「マイターン」、科学者の英知を結集した脳の健康キャンペーン「スティイング・シャープ」の三つが選ばれました。

 
「マインド・アラート 心いきいき賞」とは

 高齢者の「心の健康」に役立つ優れた活動に与えられる賞です。研究プログラム、製品、道具などが対象で、先進性、研究内容、高齢者の記憶認知力向上にもたらす効果、普及しやすさなどが選考基準になっています。
 全米エイジング協会(ASA)が2001年に設立した賞で、生命保険会社メトライフの「メトライフ基金」が協賛。高齢者の心の健康に取り組む高齢者向けケア施設、病院、診療所、大学などの教育施設が参加し、さらにテレビ・ラジオ番組、ウェブサイト、ゲーム、博物館の展示企画なども多数参加しています。
 これまでの受賞は、アルツハイマー症患者の症状を緩和するトレーニング(2001年)、高齢者向け単純操作のインターネット・ソフトウェア(2002年)、人生を振り返る心理学講習会(2004年)など多岐に渡っています。
 受賞は、全米エイジング協会とエイジング全国協議会の合同会議(2007年はシカゴで開催予定)で発表され、プレスリリース、ウェブサイト、印刷物で広く紹介され、賞金1500ドルが各受賞者に贈られています。
 
 アメリカのエルダー向け活動は、日本にとってもヒントになるものが多く、今後の参考になると思われます。






AGING TODAY, XXXVII, 1043-1284, PAGES 11&12, May-June 2006
Copyright(C) 2006 American Society of Aging, San Francisco, California;
www.asaging.org
  1. エルダーと子供が共に過ごすケア施設
  2. 大学のエルダー向け生涯学習プログラム
  3. 科学者の英知を結集した脳の健康キャンペーン

1.エルダーと子供が共に過ごすケア施設
  (オハイオ州マックリン・ケア施設、子どもとのふれあいが元気のもと)

 オハイオ州フィンドレイのマリリン・アンド・ゴードン・マックリン・インタージェネレイショナル・インスティチュート4(以下、マックリン)というケア施設。ここは、他の高齢者向け長期ケアセンターとは全く違う雰囲気です。マックリンで暮らす高齢者たち。その表情は虚ろではなく、実にいきいきとしています。孤独で退屈な日々を無感情に積み重ねることもなければ、他人がお膳立てした生活パターンの繰り返しを窮屈に感じることもありません。ここは、生後六週間のベビーから百歳を越えるお年寄りまで、実に幅広い年齢層が出会う場所なのです。 高齢者たちは頼りなく見えますが、赤ちゃんをあやしてミルクを与え、いっぱいの愛情を注いでいます。歩行器具を押すときは、よちよち歩きの赤ちゃんも一緒です。車椅子の元気な高齢者が、三輪車に乗った幼児と競争して遊ぶこともあります。

 「ただ遊んでいるように見えますが、実は心身ともに充電効果があるのです」と、マックリン所長ヴィッキー・ローズブルックさん。ここに暮らす高齢者は、楽しく遊びながら子どもの生命力やエネルギーを吸収するので、精神が安定しているそうです。幼い子どもと交流することで、ふたたび誰かに必要とされ、役立ち、つながっていると実感するのでしょう。

 マックリンでケアを受ける高齢者は、約200名。バーチャヴン高齢者ケア施設5、ブランチャード・ヴァレー健康組合6、ジュリアン・ファイサン・デイケアサービス7、ホスピス、そしてマリリン生涯学習センター8という保育所が一つ屋根の下に集結しています。保育所では、生後六週間から五歳まで72人の子どもたちを世話しています。保育所はマックリン施設内の「メイン・ストリート」と呼ばれる屋内の通りに面しており、高齢者と子どもが毎日のように一緒に過ごすことができます。この「メイン・ストリート」は、独立した個室やホスピスといった他の施設ともつながっています。

 マックリンが「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」を受賞したのは、ここで行われているSPECSというプログラムが、認知症の症状緩和につながると評価されたからです。
 「SPECSは身体状態だけでなく、発達領域すべての相互成長が持続することに焦点を当てたプログラムです。発達領域とは、社会面(Social)、身体面(Physical)、感情面(Emotional)、認知面(Cognitive)、精神面(Spiritual)の五分野です。」(ローズブルック所長)。このSPECSプログラムは、これら五つの頭文字をとったものです。

 マックリン所長のヴィッキー・ローズブルックさんは心に残る思い出があります。マックリンの取締役財務部長だったジョン・ルーサー氏のことです。彼は、引退後にバーチャヴン高齢者ケア施設に入居しました。亡くなる少し前にお見舞いに伺ったときの言葉です。 『自分の人生が残りわずかと知りながらホスピスのベッドで寝ているとき、子どもたちに会うと変わるんだ。信じられないほど違うんだよ。』
 子どもたちのほほえみや歌声、柔らかな接し方についてルーサー氏は語り、次のように話を結びました。『子どもたちは、私を病人扱いしない。あの子たちにとって、会った人が病気の老人であることなんて、たいしたことじゃないんだ。SPECSを推進する側と入居者側の両方の立場から見てきて、このプログラムの効果について声を大にして伝えたい。ぜひSPECSを継続し、なるべく多くの人に体験してほしい。』.

 マックリンでは、こんな調査結果が出ています。「他者と交流したいという子どもの習性は、高齢者の孤独感を軽減する。子どもに頼られると、高齢者の無力感が緩和される。子どもの探究心は、高齢者の退屈を忘れさせる。」 最近では、国際幼児教育協会が費用を負担し、マックリンで調査を実施した結果、高齢者と定期的に交流がある子どもは、対人関係や社会性が向上することが明らかになりました。今後マックリンは、フィンドレイ大学と提携し、高齢者と子どもの交流が、高齢者の社会面・身体面・感情面・認知面・精神面にどのような影響を及ぼすか、本格的な調査に乗り出します。

 マックリンでは、高齢者と子どもの両方の世話を同時に行う介護士の育成を目的に、SPECSを取り入れた二日間の「高齢者と子供の世代間(介護)認定研修プログラム」が実施されています。さらにはウィスコンシンの高校と共同で、高齢者と子供世代対象の「チャータースクール」(従来の公的教育規制を受けない学校)の設立をめざしており、教員候補者の研修はすでに終了しています。
 最近では、南部貧困法律センター10より、「寛容を教えるための助成金」を授与され、年齢に関する寛容性を推進するための手法や教材の確立が期待されています。

問い合わせ先:
Eメール vrosebrook@mackliniginstitute.org
ウェブサイト www.macklingintitute.org.



2.マイターン
  (日本語では、「私の番」の意味で、大学のエルダー向け生涯学習プログラム)

 「四十年働きながら、いつの日か学生に戻ると心に決めていました。それが、マイ・ターンで実現できました。」 昨年、エイリーン・バーンスタインさんから、「マイ・ターン11」プログラムの発案者で理事長のバーバラ・R・ギンズバーグに届いた手紙の一節です。「マイ・ターン」とは、ニューヨーク市立大学12キングスバラー・コミュニティ・カレッジ13(場所はブルックリン)でおこなわれている成人向け学習プログラムです。勤務先の事業縮小により、バーンスタインさんは定年退職を余儀なくされました。「行き場がなく、何をしていいかわからなくなった」そうです。

 そして彼女は、マイ・ターンを通じて出会ったのです、音楽、歴史、語学を学ぶ新しい世界に。「教養学科で43科目の単位をとりました。毎日が新しい冒険ですね。そして、何より嬉しかったのは、教授が誰一人として、『ご隠居さんの暇つぶし』扱いしなかったこと。」 そして2005年5月、バーンスタインさんは、大学の2年制プログラム成績優秀者の名誉組織「ファイ・シータ・カッパ」会員に選ばれました。

 バーンスタインさんのように、「マイ・ターン」で第二の人生を見つけて感謝するエルダーは少なくありません。その結果、「マイ・ターン」は成人向け学習プログラムとして二十五周年を迎え、さらには「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」生涯学習および高齢者向け学習プログラム部門を受賞しました。高齢者の「心の健康」を促進したことが評価されての受賞です。
 
 「マイ・ターン」発足は、1981年。初年度の参加者は30名で、全員が65歳以上。アメリカの大学における高齢者向けプログラムとして、先進的な取り組みでした。近年は参加者の年齢制限を60歳まで引き下げ、年間約2000人が受講していていますが、その4分の1強が85歳以上です。ニューヨーク市が財政面でプログラムを助成しています。

 マイ・ターン参加者は、普通の学生と同じコースで大学の単位を取得します。特別な審査はありません。大学教授が求める学習レベル、つまり試験を受けたり、論文を書いたり、口頭での発表といった通常の学業に対し、しっかりした自覚と責任感をもちながら取り組んでいます。だから教授はエルダーの学生たちを、クラスの宝として敬い、若い学生のお手本として接しています。」(キンズバーグ理事長)エルダーの学生たちは班を結成し、他の学生に論文の書き方や試験勉強の方法を伝授しているそうです。
 
 長年の間に、「マイ・ターン」は教室の外に飛び出して活動の場を広げています。エルダーたちの活躍例を紹介しましょう。「マイ・ターン・クラブ」は、「マイ・ターン」参加者たちが作った公式大学プログラム。シリーズ講座と毎学期末のパーティーから構成。毎年春にはケーキや本を売るバザーを開催して資金を集め、「マイ・ターン」以外の卒業生に対して「ピアー・サービス賞」(仲間に贈る賞)を贈呈しています。

 「マイ・ターン」の学生は、また大学内のほかのプログラムにボランティア参加して、「マイ・ターン」新入生へのカウンセリングや登録の手伝いをしています。エルダー新入生を組織的にサポート。郵便物の発送、事務所の電話応対、カウンセリングの手伝いなどは、熟練のボランティア組織の力を借りて運営しています。たとえば「トーキング・バディーズ」(おしゃべり仲間の意味)は、英語を第二言語として学ぶプログラムとの共同プロジェクト。外国人学生にとって英会話の練習となり、一方で「マイ・ターン」学生は外国の生活や文化について学ぶことができます。

 ニューヨーク市教育委員会を通じ、「マイ・ターン」参加者は、介護の仕事をめざす若い学生(16〜19歳)の相談相手として、週一回英語や数学を指導もしています。ニューヨーク市高齢者対策部門と共同で、健康保険情報のカウンセリングと支援のボランティアとして活動。健康保険プランの管理、たとえば「メディケア14」保険制度の新しいプランなどで、保険加入者をサポート。「マイ・ターン」参加者の一人が、遺族の心のケアを行うサポートグループ結成の中心人物だったことがきっかけで始まった。当初「マイ・ターン」参加者のみを対象として発足したグループは、またたくまに大学在籍者なら誰でも支援を受けられるサービスとして拡大。

 「マイ・ターン・アウトリーチ」と呼ばれる、一番新しい活動。2005年秋開始。大学教授が地元ケアホームに出向いて授業を行う。ひとつの施設で試みたところ、問い合わせが何件も入り、来秋から他施設でも実施予定です。

 「マイ・ターン」と同内容のプログラムを検討中の他大学に向け、数多くのセミナーを開催してきました。これまでアメリカ、カナダ、スイス、イギリス、デンマークの大学にプログラム内容の説明を実施しています。

問い合わせ先:
Eメール bginsberg@kingsborough.edu
ウェブサイト www.kbcc.cuny.edu/myturn


3.スティイングシャープ
  (日本語で「ずっと頭脳明晰でいること」と言う意味で、
   ここでは「輝く脳でいよう」と訳した。
   科学者の英知を結集した脳の健康キャンペーン)

 「脳の健康を保つために、いろいろ方法があるんですね。」
 「訓練が大切だなんて、知らなかった。」
 「年とったら認知症になって当たり前、というのは間違った認識。」
 「このプログラムを知ったら、年とることが怖くなくなった。」

 「輝く脳でいよう!」(英語名「スティイング・シャープ15」)講演会に参加したエルダー世代の声です。ほかにも大勢から驚きの感想が寄せられました。 「輝く脳でいよう!」は、脳の健康維持をテーマとした、公的教育キャンペーンプログラムのこと。主催者は、脳問題に取り組むダナ連盟16、ならびにAARP17(全米退職者協会)を母体とする教育団体「NRTA(全米退職教員連盟)」18です。高齢者の脳機能の向上と脳の健康維持に関するキャンペーンを全米で展開し、「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」生涯学習および高齢者向け学習プログラム部門を受賞しました。高齢者の「心の健康」を促進したことが評価されての受賞です。

 「輝く脳でいよう!」のプログラムは、講演会、インターネット、テレビ、パッケージ・ビデオ、印刷物と、さまざまなメディアにまたがっています。その内容は、ノーベル賞受賞者10人を含むダナ・アライアンスのメンバー250名の専門知識に基づいて作成されています。例を挙げましょう。2004年10月にラスベガスで開催されたAARPの全国イベント「ライフ@50」(五十歳の人生)では、ジョン・ホプキンズ大学の脳・精神研究所の設立者で、同大学認知神経科学・認知神経心理学部門ならびに記憶症部門の理事長であるバリー・ゴードン19 教授の脳の健康維持の講演があり、これには三千人以上の参加者がありました。イリノイ州で行われた「輝く脳でいよう」フォーラムでは、ノースウェスタン大学認知神経科学・アルツハイマー病センター理事長マレック・マーセル・メスラム 教授が講演を行い、第一線の専門家が多数参加しました。

 こうした脳の研究に加え、脳神経科学が健全な認知力の維持にどう役立つか、誰にでもわかりやすい言葉で説明する講演会を実施しています。2004年から2005年にかけて、全米15箇所で行われた「輝く脳でいよう!」の対話型講演会には、8000人以上が参加し、参加者からは、「科学的なのに、わかりやすい」、「楽しかった。勉強になり、とても役に立った」といった感想が寄せられました。実に参加者の87%が、「認知力の健康維持について理解が深まった」、88%が「説明内容は実践的で役立つ」と評価し、89%が「バランスのとれた内容。詳しい情報も十分に伝わった」と回答しています。さらに注目すべきは、参加者の多くが「自分も実際に行動を起こそう」と考えたことでしょう。「パーキンソン病の兄に連絡をとるつもり」と述べた人や、「妻の記憶障害について理解を深め、サポートしたい」と決意した人もいました。
 
 「輝く脳でいよう!」プログラムは、今年に入ってすでに15回の講演を実施しました。対象年齢は50歳以上で、家族や友人も参加できます。講演は2時間。司会者の進行による神経科学者のパネル・ディスカッションと参加者の質問から構成され、脳の働き、脳障害の予防と治療、高齢者の脳健康維持などについて学びます。アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患や脳障害についての情報はもちろんですが、何より伝えたいことは、「加齢は必ずしも認知力の低下を招くとはかぎらない」という、前向きなメッセージです。そして参加者たちは、自分自身の責任のもとで、脳の健康と機能を保とうという気持ちになるのです。

 「輝く脳でいよう!」キャンペーンを通じ、5種類のパンフレット(英語とスペイン語)が3万部以上も配布されています。「生活の質を向上させる」という視点ではなく、「機能低下を最小限にとどめる」ことに重点をおいた内容です。こうした普及活動の中心的な担い手が、定年退職した教員の組織(NRTA)。全米50州に支部を持ち、2700の地域に関連組織をおくネットワークです。5種類のパンフレットや他の印刷物はすべて、ウェブサイト、www.aarp.org/nr ta.、から無料でダウンロードができるほか、このサイトからダナ・アライアンスのウェブ上で視聴できるビデオ形式のコンテンツを提供するウェブキャストにリンクして、ロンドンとワシントンDCにあるセンターが放送する脳科学の番組を視聴することも可能です。

 またNRTAは、全米にある公立または地域の退職教員組織に対し、この活動の提唱をしたり、教育・啓蒙支援、地域へのサービスを提供する際のコーディネーションを行っています。NRTA会員と退職教員組織の会員は、合計およそ100万人にのぼります。さらにNRTAはダナ・アライアンスの脳科学者たちをプロ司会者が紹介するビデオを制作し、「草の根」レベルでのプレゼンテーションの雛形として使えるようにしました。こうしたビデオを使って、「輝く脳でいよう!」キャンペーンは、今後さらなる広がりを見せることでしょう。
 
 ウェブサイト: www.aarp.org/about_aarp/nrta/stay-ing_sharp. で「輝く脳でいよう!」のより詳しい情報を見ることができます。


1 2006 MindAlert Awards
2 American Society on Aging
3 MetLife Foundation
4 Marilyn and Gordon Macklin Intergenerational Institute
5 Birchaven Ritirement Village
6 Blanchard Valley Health Association
7 Julien Faisant Adult Day Services
8 Marilyn’s Lifelong Education Center
9 Association for Childhood Education International
10 Southern Poverty Law Center
11 My Turn
12 City University of New York
13 Kingsborough Community College
14
米国の高齢者向け医療保険制度。アメリカには日本のように国民全員が加入する公的な医療保険制度がなく、国民は基本的に民間の医療保険サービスに加入する。ただし、65歳以上の高齢者と一部の身体障害者については、比較的安価な保険料で加入できる公的医療保険システムが存在する。これが「メディケア」である。
15 Staying Sharp
16 Dana Alliance for Brain Initiatives
17 American Association of Retired Workers
18 National Retired Teachers Association (NRTA)
19 Barry Gordon
20 Marek-Marsel Mesulam
印刷用PDFファイル




      
ハッピー・エルダーおよびHappy Elderは、ハッピー・エルダー株式会社の登録商標です。