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アメリカの精神科医ロバート・バトラー博士(Robert Butler, M.D)は, 1961年その論文『ライフ・レビュー:年を取った人達の回想の一つの解釈、The Life Review : An interpretation of reminiscence in the aged』で、ライフ・レビューとは“過去の経験、とりわけ解決できないでいた葛藤などに気付くような、ごく自然に、誰にでも起きる精神的な過程”と定義しました。 当時は、記憶を失っていく高齢者が過去に目を向けることは、老化の症状と考えられていたので、全ての年を取った人達が意識するかしないにかかわらず、全ての人に起こる自然な事だというのは、注目されることでした。“過去の未解決の葛藤を眺めることは心の安定につながる”としましたが、誰でもが前向きのライフ・レビュー結果を得られるとは限らないとも指摘していました。結果によらず、このライフ・レビューの過程は、個人の人格すなわちパーソナリティーの、最後の再構築と統合という一つの本質的なことと考えられています。
1980年にバトラー博士は、回想する(reminiscence)過程は、しばしば癒す力の効用(therapeutic benefit)があると唱えました。ライフ・レビューを利用することは、個人の療法のみならずグループや家族療法でも良い結果をもたらすと主張しました。
『本書で訴えたいのは、「年齢にかかわらず」ではなく、「年齢を重ねたからこそ」、いかに心理的に成長し、創造的に生きていけるか、ということなのです。』と、そのメッセージを日本版によせて書いているアメリカ、ジョージ・ワシントン大学加齢健康人文科学研究センター所長、ジーン・コーエン博士は、近著で自叙伝の効用を次のように述べています。
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・・・人生の総まとめをしたいというインナープツシユは、人生を振り返り、物語や回顧録や自伝を執筆するという創造的な形で現れることもよくあります。私が行ってぃるリタイアメント研究に参加してくださった七〇代、八〇代の大半の方が、回顧録の執筆、歴史の語り部、写真アルバム編纂、家系図製作など、何らかの形で人生を振り返る作業をしていました。こういった作業の典型例としては、ワシントン・ポスト紙の元社主、キャサリン・グラハムの回顧録が挙げられます。初めての著作となるこの本を、彼女は79歳で執筆しました。ちなみに、この本は一九九八年にピューリツァー賞を受賞しています。
この段階に「自伝を残したい」という強い思いが出てくるのは、この段階以前から抱いていた自らの死への自覚とともに、第1章でお話しした脳内で起こる生理的な変化が関係していると私は考えています。特にこの段階では脳全体を使うことによって、事実や感情など、さまざまな側面からフルに人生を戻り返ることができるのです。多くの年長者が自分の過去について話したがり、人生の回顧作業をしたがるのは、単なる偶然ではないはずです。もちろん、自由時間がたくさんあることも重要な要因でしょう。書きものをしたり、家族の写真などを整理したりするのは、時間やエネルギーを要する作業です。子育てや仕事に忙しい若い世代には、そんな時聞はないでしょう。しかし、自由時間の使い道なら他にもたくさんあります。なのに、どうしてみんながこぞって、周りのみんなに恩返しをしたいと、大がかりな総まとめ作業をしたがるのでしょうか。

この問いに対するきちんとした答えはまだ見つかっていません。・・・(中略)・・・脳の多くの場所を使って人生の出来事を回顧すると、脳の資源が広範囲に活用されるため、これまでの経験がより「豊か」で「生き生きとした」ものになる、というのが私の仮説です。後半生になると、脳自体が自伝作業に関わること、そのために脳の多くの場所を使うことを楽しんでいるのではないかと私は思います。自伝をはじめとする大がかりな人生の総まとめ作業は、後半生の脳にとってデザートのような、ちょっと贅沢な食べ物のようなものではないかと私は見ています。

まとめの過程が、まだ叶わぬ夢の実現や、確執の終焉へと向かうこともあります。こうした課題と向き合つて対処したいという気持ちが、人生のこの時期に非常に高まることがあります。1960年代初めに、精神科医でピューリツァー賞受賞者のジェロントロジストであるロバート・バトラーは、「回想法」という概念を提唱し、これを治療法として導入しました。人生回想の過程とは「過去に経験した意識へと順に戻つていくことで特徴づけられ、特に未解決の確執などが再び頭をもたげ、その意味がその人の中で再統合される。もし、再統合がうまくいけば、それはその人にとつて新しい人生の意味となる」と、バトラーは語っています。
自らの人生を記録することは、年長者を扱う研究者などの間では、広く支持され、受け入れられています。現在では、心理学者は人生の見直しを通常の加齢の過程であると捉えています。人生回想の過程が、自己認識や自己受容へとつながるからです。バトラーの画期的な手法は、いまでは多くの方面で利用されています。「人生回想」を行う形態はグループでも個人でもよく、また、執筆、美術、写真など、どのような表現手法を用いてもいいのです。どういう形であれ、まとめの作業は刺激的で人生を開花させる体験であることが重要です。 |
「いくつになっても脳は若返る」、ジーン・D・コーエン著、野田一夫監訳、村田裕之・竹林正子訳、ダイヤモンド社、2006年、1,680円、原題The Mature Mind
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参考図書(上段左から):
- The Mature Mind: The Positive Power of the Aging Brain
Gene D. Cohen著、Basic Books、2005年
- いくつになっても脳は若返る
ジーン・D・コーエン著、野田一夫監訳、村田裕之・竹林正子訳、ダイヤモンド社、2006年、1,680円
- 老いて賢くなる脳
エルコノン・ゴールドバーグ著、藤井留美訳、NHK出版、2006年、2,100円
- Why Survive? Being Old in America
Robert N. Butler, M.D.著、The Johns Hpokins University Press、1975年
- 老後はなぜ悲劇なのか? アメリカの老人たちの生活
ロバート・バトラー著、内薗耕二監訳、グレッグ・中村文子訳、メチカルフレンド社、1994年、4,600円
- プロダクティブ・エイジング 高齢者は未来を切り開く
ロバート・バトラー、ハーバート・グリーソン編、ベティ・フリーダン、アルバー・スバンボーグ他著、岡本祐三訳、日本評論社、1998年、2,520円
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日本では、英語のレミニッセンス・セラピー(reminicscence therapy)、あるいはライフ・レビュー・セラピー(Life review therapy)を『回想法』と呼ぶようになりました。、主に施設高齢者や認知症高齢者にグループでの回想法を応用し、臨床や高齢者の施設で行われ研究が報告されています。
さらに最近は、昔懐かしい生活用具などを用いかつて自分達が体験したことを語り合ったり、過去のことに思いをめぐらしたりすることにより、脳を活性化させようとしたり、あるいは高齢化社会での地域活性化の取組みの一つとしての試みも行われようとしています。しかし、グループでの治療法としては、療法を支援できる治療士の確保や養成、参加する人達へのサポート体制、さらには最近の個人情報保護とのかねあいなどいくつもの課題が指摘されています。
“回想法のメッカ”とも言われている愛知県北名古屋市師勝町では、地元の素封家で地主として栄えた「旧加藤家」の住宅、主家、長屋門、離れ、茶室、土蔵、高塀など約370坪を利用して、「思い出ふれあい事業」として、回想法スクールの実践、回想法の研究の場として、「回想法センター」を2002年に作りました。 また、同じ町内に作った「師勝町歴史民俗資料館」は、昭和時代の生活用品を集めて展示しています。 依頼によっては。懐かしグッズを貸し出すこともあるようです。
岐阜県恵那市明智町大正村では、木造の古い病院を改造して「回想センター思い出学校」を作り、回想法への取組みを進めています。
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参考図書(上段左から):
- シリーズこころとからだの処方箋 高齢者の「生きる場」を求めて
上里一郎監修、野村豊子編、ゆまに書房、2006年、3,675円
- 写真で見せる回想法
志村ゆず・鈴木正典編、伊波和恵・下垣光・下山久之・荻原裕子著、弘文堂、2,940円
- ライフレビューブック
志村ゆず編、伊波和恵・荻原裕子・下山久之・下垣光著、弘文堂、2005年、2,940円
- 昭和夏休み大全 ぼくらの思い出アルバム
市橋芳則、河出書房新社、2004年、1,470円
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