

AGING TODAY, XXXVII, 1043-1284, PAGES 11&12, May-June 2006
Copyright(C) 2006 American Society of Aging, San Francisco, California;
www.asaging.org |
- エルダーと子供が共に過ごすケア施設
- 大学のエルダー向け生涯学習プログラム
- 科学者の英知を結集した脳の健康キャンペーン
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1.エルダーと子供が共に過ごすケア施設
(オハイオ州マックリン・ケア施設、子どもとのふれあいが元気のもと) |
オハイオ州フィンドレイのマリリン・アンド・ゴードン・マックリン・インタージェネレイショナル・インスティチュート4(以下、マックリン)というケア施設。ここは、他の高齢者向け長期ケアセンターとは全く違う雰囲気です。マックリンで暮らす高齢者たち。その表情は虚ろではなく、実にいきいきとしています。孤独で退屈な日々を無感情に積み重ねることもなければ、他人がお膳立てした生活パターンの繰り返しを窮屈に感じることもありません。ここは、生後六週間のベビーから百歳を越えるお年寄りまで、実に幅広い年齢層が出会う場所なのです。 高齢者たちは頼りなく見えますが、赤ちゃんをあやしてミルクを与え、いっぱいの愛情を注いでいます。歩行器具を押すときは、よちよち歩きの赤ちゃんも一緒です。車椅子の元気な高齢者が、三輪車に乗った幼児と競争して遊ぶこともあります。
「ただ遊んでいるように見えますが、実は心身ともに充電効果があるのです」と、マックリン所長ヴィッキー・ローズブルックさん。ここに暮らす高齢者は、楽しく遊びながら子どもの生命力やエネルギーを吸収するので、精神が安定しているそうです。幼い子どもと交流することで、ふたたび誰かに必要とされ、役立ち、つながっていると実感するのでしょう。
マックリンでケアを受ける高齢者は、約200名。バーチャヴン高齢者ケア施設5、ブランチャード・ヴァレー健康組合6、ジュリアン・ファイサン・デイケアサービス7、ホスピス、そしてマリリン生涯学習センター8という保育所が一つ屋根の下に集結しています。保育所では、生後六週間から五歳まで72人の子どもたちを世話しています。保育所はマックリン施設内の「メイン・ストリート」と呼ばれる屋内の通りに面しており、高齢者と子どもが毎日のように一緒に過ごすことができます。この「メイン・ストリート」は、独立した個室やホスピスといった他の施設ともつながっています。
マックリンが「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」を受賞したのは、ここで行われているSPECSというプログラムが、認知症の症状緩和につながると評価されたからです。
「SPECSは身体状態だけでなく、発達領域すべての相互成長が持続することに焦点を当てたプログラムです。発達領域とは、社会面(Social)、身体面(Physical)、感情面(Emotional)、認知面(Cognitive)、精神面(Spiritual)の五分野です。」(ローズブルック所長)。このSPECSプログラムは、これら五つの頭文字をとったものです。
マックリン所長のヴィッキー・ローズブルックさんは心に残る思い出があります。マックリンの取締役財務部長だったジョン・ルーサー氏のことです。彼は、引退後にバーチャヴン高齢者ケア施設に入居しました。亡くなる少し前にお見舞いに伺ったときの言葉です。 『自分の人生が残りわずかと知りながらホスピスのベッドで寝ているとき、子どもたちに会うと変わるんだ。信じられないほど違うんだよ。』
子どもたちのほほえみや歌声、柔らかな接し方についてルーサー氏は語り、次のように話を結びました。『子どもたちは、私を病人扱いしない。あの子たちにとって、会った人が病気の老人であることなんて、たいしたことじゃないんだ。SPECSを推進する側と入居者側の両方の立場から見てきて、このプログラムの効果について声を大にして伝えたい。ぜひSPECSを継続し、なるべく多くの人に体験してほしい。』.
マックリンでは、こんな調査結果が出ています。「他者と交流したいという子どもの習性は、高齢者の孤独感を軽減する。子どもに頼られると、高齢者の無力感が緩和される。子どもの探究心は、高齢者の退屈を忘れさせる。」 最近では、国際幼児教育協会が費用を負担し、マックリンで調査を実施した結果、高齢者と定期的に交流がある子どもは、対人関係や社会性が向上することが明らかになりました。今後マックリンは、フィンドレイ大学と提携し、高齢者と子どもの交流が、高齢者の社会面・身体面・感情面・認知面・精神面にどのような影響を及ぼすか、本格的な調査に乗り出します。
マックリンでは、高齢者と子どもの両方の世話を同時に行う介護士の育成を目的に、SPECSを取り入れた二日間の「高齢者と子供の世代間(介護)認定研修プログラム」が実施されています。さらにはウィスコンシンの高校と共同で、高齢者と子供世代対象の「チャータースクール」(従来の公的教育規制を受けない学校)の設立をめざしており、教員候補者の研修はすでに終了しています。
最近では、南部貧困法律センター10より、「寛容を教えるための助成金」を授与され、年齢に関する寛容性を推進するための手法や教材の確立が期待されています。
問い合わせ先:
Eメール vrosebrook@mackliniginstitute.org
ウェブサイト www.macklingintitute.org.
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2.マイターン
(日本語では、「私の番」の意味で、大学のエルダー向け生涯学習プログラム)
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「四十年働きながら、いつの日か学生に戻ると心に決めていました。それが、マイ・ターンで実現できました。」 昨年、エイリーン・バーンスタインさんから、「マイ・ターン11」プログラムの発案者で理事長のバーバラ・R・ギンズバーグに届いた手紙の一節です。「マイ・ターン」とは、ニューヨーク市立大学12キングスバラー・コミュニティ・カレッジ13(場所はブルックリン)でおこなわれている成人向け学習プログラムです。勤務先の事業縮小により、バーンスタインさんは定年退職を余儀なくされました。「行き場がなく、何をしていいかわからなくなった」そうです。
そして彼女は、マイ・ターンを通じて出会ったのです、音楽、歴史、語学を学ぶ新しい世界に。「教養学科で43科目の単位をとりました。毎日が新しい冒険ですね。そして、何より嬉しかったのは、教授が誰一人として、『ご隠居さんの暇つぶし』扱いしなかったこと。」 そして2005年5月、バーンスタインさんは、大学の2年制プログラム成績優秀者の名誉組織「ファイ・シータ・カッパ」会員に選ばれました。
バーンスタインさんのように、「マイ・ターン」で第二の人生を見つけて感謝するエルダーは少なくありません。その結果、「マイ・ターン」は成人向け学習プログラムとして二十五周年を迎え、さらには「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」生涯学習および高齢者向け学習プログラム部門を受賞しました。高齢者の「心の健康」を促進したことが評価されての受賞です。
「マイ・ターン」発足は、1981年。初年度の参加者は30名で、全員が65歳以上。アメリカの大学における高齢者向けプログラムとして、先進的な取り組みでした。近年は参加者の年齢制限を60歳まで引き下げ、年間約2000人が受講していていますが、その4分の1強が85歳以上です。ニューヨーク市が財政面でプログラムを助成しています。
マイ・ターン参加者は、普通の学生と同じコースで大学の単位を取得します。特別な審査はありません。大学教授が求める学習レベル、つまり試験を受けたり、論文を書いたり、口頭での発表といった通常の学業に対し、しっかりした自覚と責任感をもちながら取り組んでいます。だから教授はエルダーの学生たちを、クラスの宝として敬い、若い学生のお手本として接しています。」(キンズバーグ理事長)エルダーの学生たちは班を結成し、他の学生に論文の書き方や試験勉強の方法を伝授しているそうです。
長年の間に、「マイ・ターン」は教室の外に飛び出して活動の場を広げています。エルダーたちの活躍例を紹介しましょう。「マイ・ターン・クラブ」は、「マイ・ターン」参加者たちが作った公式大学プログラム。シリーズ講座と毎学期末のパーティーから構成。毎年春にはケーキや本を売るバザーを開催して資金を集め、「マイ・ターン」以外の卒業生に対して「ピアー・サービス賞」(仲間に贈る賞)を贈呈しています。
「マイ・ターン」の学生は、また大学内のほかのプログラムにボランティア参加して、「マイ・ターン」新入生へのカウンセリングや登録の手伝いをしています。エルダー新入生を組織的にサポート。郵便物の発送、事務所の電話応対、カウンセリングの手伝いなどは、熟練のボランティア組織の力を借りて運営しています。たとえば「トーキング・バディーズ」(おしゃべり仲間の意味)は、英語を第二言語として学ぶプログラムとの共同プロジェクト。外国人学生にとって英会話の練習となり、一方で「マイ・ターン」学生は外国の生活や文化について学ぶことができます。
ニューヨーク市教育委員会を通じ、「マイ・ターン」参加者は、介護の仕事をめざす若い学生(16~19歳)の相談相手として、週一回英語や数学を指導もしています。ニューヨーク市高齢者対策部門と共同で、健康保険情報のカウンセリングと支援のボランティアとして活動。健康保険プランの管理、たとえば「メディケア14」保険制度の新しいプランなどで、保険加入者をサポート。「マイ・ターン」参加者の一人が、遺族の心のケアを行うサポートグループ結成の中心人物だったことがきっかけで始まった。当初「マイ・ターン」参加者のみを対象として発足したグループは、またたくまに大学在籍者なら誰でも支援を受けられるサービスとして拡大。
「マイ・ターン・アウトリーチ」と呼ばれる、一番新しい活動。2005年秋開始。大学教授が地元ケアホームに出向いて授業を行う。ひとつの施設で試みたところ、問い合わせが何件も入り、来秋から他施設でも実施予定です。
「マイ・ターン」と同内容のプログラムを検討中の他大学に向け、数多くのセミナーを開催してきました。これまでアメリカ、カナダ、スイス、イギリス、デンマークの大学にプログラム内容の説明を実施しています。
問い合わせ先:
Eメール bginsberg@kingsborough.edu
ウェブサイト www.kbcc.cuny.edu/myturn
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3.スティイングシャープ
(日本語で「ずっと頭脳明晰でいること」と言う意味で、
ここでは「輝く脳でいよう」と訳した。
科学者の英知を結集した脳の健康キャンペーン)
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「脳の健康を保つために、いろいろ方法があるんですね。」
「訓練が大切だなんて、知らなかった。」
「年とったら認知症になって当たり前、というのは間違った認識。」
「このプログラムを知ったら、年とることが怖くなくなった。」
「輝く脳でいよう!」(英語名「スティイング・シャープ15」)講演会に参加したエルダー世代の声です。ほかにも大勢から驚きの感想が寄せられました。 「輝く脳でいよう!」は、脳の健康維持をテーマとした、公的教育キャンペーンプログラムのこと。主催者は、脳問題に取り組むダナ連盟16、ならびにAARP17(全米退職者協会)を母体とする教育団体「NRTA(全米退職教員連盟)」18です。高齢者の脳機能の向上と脳の健康維持に関するキャンペーンを全米で展開し、「2006年度マインド・アラート 心いきいき賞」生涯学習および高齢者向け学習プログラム部門を受賞しました。高齢者の「心の健康」を促進したことが評価されての受賞です。
「輝く脳でいよう!」のプログラムは、講演会、インターネット、テレビ、パッケージ・ビデオ、印刷物と、さまざまなメディアにまたがっています。その内容は、ノーベル賞受賞者10人を含むダナ・アライアンスのメンバー250名の専門知識に基づいて作成されています。例を挙げましょう。2004年10月にラスベガスで開催されたAARPの全国イベント「ライフ@50」(五十歳の人生)では、ジョン・ホプキンズ大学の脳・精神研究所の設立者で、同大学認知神経科学・認知神経心理学部門ならびに記憶症部門の理事長であるバリー・ゴードン19 教授の脳の健康維持の講演があり、これには三千人以上の参加者がありました。イリノイ州で行われた「輝く脳でいよう」フォーラムでは、ノースウェスタン大学認知神経科学・アルツハイマー病センター理事長マレック・マーセル・メスラム
教授が講演を行い、第一線の専門家が多数参加しました。
こうした脳の研究に加え、脳神経科学が健全な認知力の維持にどう役立つか、誰にでもわかりやすい言葉で説明する講演会を実施しています。2004年から2005年にかけて、全米15箇所で行われた「輝く脳でいよう!」の対話型講演会には、8000人以上が参加し、参加者からは、「科学的なのに、わかりやすい」、「楽しかった。勉強になり、とても役に立った」といった感想が寄せられました。実に参加者の87%が、「認知力の健康維持について理解が深まった」、88%が「説明内容は実践的で役立つ」と評価し、89%が「バランスのとれた内容。詳しい情報も十分に伝わった」と回答しています。さらに注目すべきは、参加者の多くが「自分も実際に行動を起こそう」と考えたことでしょう。「パーキンソン病の兄に連絡をとるつもり」と述べた人や、「妻の記憶障害について理解を深め、サポートしたい」と決意した人もいました。
「輝く脳でいよう!」プログラムは、今年に入ってすでに15回の講演を実施しました。対象年齢は50歳以上で、家族や友人も参加できます。講演は2時間。司会者の進行による神経科学者のパネル・ディスカッションと参加者の質問から構成され、脳の働き、脳障害の予防と治療、高齢者の脳健康維持などについて学びます。アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患や脳障害についての情報はもちろんですが、何より伝えたいことは、「加齢は必ずしも認知力の低下を招くとはかぎらない」という、前向きなメッセージです。そして参加者たちは、自分自身の責任のもとで、脳の健康と機能を保とうという気持ちになるのです。
「輝く脳でいよう!」キャンペーンを通じ、5種類のパンフレット(英語とスペイン語)が3万部以上も配布されています。「生活の質を向上させる」という視点ではなく、「機能低下を最小限にとどめる」ことに重点をおいた内容です。こうした普及活動の中心的な担い手が、定年退職した教員の組織(NRTA)。全米50州に支部を持ち、2700の地域に関連組織をおくネットワークです。5種類のパンフレットや他の印刷物はすべて、ウェブサイト、www.aarp.org/nr ta.、から無料でダウンロードができるほか、このサイトからダナ・アライアンスのウェブ上で視聴できるビデオ形式のコンテンツを提供するウェブキャストにリンクして、ロンドンとワシントンDCにあるセンターが放送する脳科学の番組を視聴することも可能です。
またNRTAは、全米にある公立または地域の退職教員組織に対し、この活動の提唱をしたり、教育・啓蒙支援、地域へのサービスを提供する際のコーディネーションを行っています。NRTA会員と退職教員組織の会員は、合計およそ100万人にのぼります。さらにNRTAはダナ・アライアンスの脳科学者たちをプロ司会者が紹介するビデオを制作し、「草の根」レベルでのプレゼンテーションの雛形として使えるようにしました。こうしたビデオを使って、「輝く脳でいよう!」キャンペーンは、今後さらなる広がりを見せることでしょう。
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1 2006 MindAlert Awards
2 American Society on Aging
3 MetLife Foundation
4 Marilyn and Gordon Macklin Intergenerational Institute
5 Birchaven Ritirement Village
6 Blanchard Valley Health Association
7 Julien Faisant Adult Day Services
8 Marilyn’s Lifelong Education Center
9 Association for Childhood Education International
10 Southern Poverty Law Center
11 My Turn
12 City University of New York
13 Kingsborough Community College
14 米国の高齢者向け医療保険制度。アメリカには日本のように国民全員が加入する公的な医療保険制度がなく、国民は基本的に民間の医療保険サービスに加入する。ただし、65歳以上の高齢者と一部の身体障害者については、比較的安価な保険料で加入できる公的医療保険システムが存在する。これが「メディケア」である。
15 Staying Sharp
16 Dana Alliance for Brain Initiatives
17 American Association of Retired Workers
18 National Retired Teachers Association (NRTA)
19 Barry Gordon
20 Marek-Marsel Mesulam |