AGING TODAY, XXVIII, PAGES 11&12, September-October 2007
Copyright(C) 2007 American Society of Aging, San Francisco, California;
www.asaging.org
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  1. 脳の健康に必要不可欠な5要素
  2. 人間の脳  ~健康的なライフスタイルを実現するための新フロンティア~
    <ポール・デビッド・ナスバウム博士の講演より>

脳の健康には、以下の5要素が必要不可欠です。

1. 社会との関わり
人は社会とつながりを持ち、自分に合った方法で他者との交わりを保ち続けることが望ましいとされます。孤立した生活を送る人は、認知症発生リスクが高いとの調査結果が出ています。別の最新調査でも、孤独感がもたらすストレスが血流に悪影響を及ぼし、認知症リスクが高まることが判明しました。

2. 運動
人間の脳は、心臓の鼓動一回で送られる血液量の25%を必要とします。調査により、毎日の散歩、エアロビクス、ダンスなどの運動で、脳の健康を維持できることが明らかになりました。運動によって脳の血流が促進され、脳の健康が保たれるのです。

3. 知的刺激
子供のころから、人間の脳は精神的な刺激を求める傾向があります。語学(手話を含む)、読書、執筆、パズルやボードゲーム、コンピューターを使った知能トレーニング、旅行など、新しい物事を学ぶとIQが向上し、脳の健康に好影響を及ぼすとの調査結果が公表されています。何かするべき目標がたくさんあると、人は一生懸命努力をします。新しく難しいチャレンジが、大脳皮質への刺激となり、脳の容量を増やすのです。

4. 栄養
栄養脳神経学の分野は、日々発展しています。脳の50%が脂肪からできており、オメガ3脂肪酸に富んだ食品(魚やクルミなど)や抗酸化物質(ビタミンA、C、E)が脳の健康維持に効果的です。また野菜や果物にも、同様の効果があります。加工食品の摂取を減らし、過度の脂肪分やトランス型脂肪酸を避けること、毎日のカロリー摂取量を減らし、食事を腹八分に抑えることを専門家は勧めています。

5. 精神的安定
もっとのんびり生きましょう!刺激が強すぎる環境におかれた動物は脳の発達が遅いとの調査結果があります。原因はストレスが動物の脳に悪影響を与えたことで、人間にも同様の影響が見込まれるそうです。毎日の祈りや読経、宗教的行事への定期的参加、瞑想や心のリラックスの実践が、ゆったり安らかな気持ちと脳の健康維持につながります。


人間の脳  ~健康的なライフスタイルを実現するための新フロンティア~

 神経心理学臨床医ポール・D・ナスバウム博士はこのたび、「アメリカ加齢協会(ASA=American Society on Aging)2007年度グロリア・カヴァナ賞」を受賞しました。受賞発表は、ASAと加齢に関する国民会議(National Council on Aging)のシカゴ合同会議にて行われました。
 以下に紹介する文献は、シカゴ会議での博士の受賞講演から抜粋したものです。

 ナスバウム博士はペンシルバニア大学ピッツバーグ医科大学神経科学科非常勤助教授で、近著に「健康な脳を保つ生活~自分の人生物語を忘れないために」があります。 *原題 “Your Brain Health Lifestyle: Preserving Your Life Story” (Tarentum, Pa,: Word Association Publishing 2007)
 書籍に関する問い合わせ先 81-(800)-827-7903
 ナスバウム博士ウェブサイト www.paulnussbaum.com


<ポール・デビッド・ナスバウム博士の講演より>

 私は、人間の脳が世界最大の神秘、もっとも優れたシステムと考え、十年以上にわたって全米で脳に関する講演活動と執筆活動を続けてきました。人の現在と未来を定義づける脳は、きわめて重要な存在です。それにも関わらず、その仕組みがほとんど知られていないことに大きな矛盾を感じます。理由はいろいろありますが、人類文化の足どりを見るかぎり、脳の研究が重視されなかったことが根底にあるようです。最近はブーマー世代の高齢化に伴って米国文化が変わりつつあり、脳への関心が高まる傾向にあるのは喜ばしいことです。

脳の可塑性

 齧歯類や霊長類(人間を除く)の脳の形成と機能は、環境によって左右されることが科学的に明らかにされています。人間の脳で新しい神経細胞を作る(ニューロン新生)能力についての文献が初めて出版されたのは1998年でした。新しい神経細胞が発見されたのは側頭葉中心部の海馬部分で、記憶を司る系統として最重要箇所にあたります。この発見は、人間の脳に「可塑性」が備わっているとの学説に基づきます。人の脳はダイナミックに再生を繰り返し、生涯にわたって形作られるという説です。

 脳に「可塑性」があるということは、これまで長年にわたって信じられてきた人間の脳の定説、すなわち幼少期を除くと新しい細胞を生成する能力はなくなり、一定の限られた能力しかないという考えに反論するものです。「可塑性」を研究すれば、新しい神経細胞の生成、脳の健康維持への鍵が見つかるかもしれません。

 これまで西洋文化は人間の脳に着目することがなかったので、私達は身体の健康と脳の関係について考えたことがありませんでした。ごく最近まで、心臓が人間の体の中心で、存在の根幹だと考えられていました。しかし脳が人間の思考、感情、運動神経、さらには生命そのものの中心であることを示す新発見が相次ぎ、従来の考えが変わりつつあります。

 動物の研究を参考に見てみましょう。良好な環境を作る要素が、「社会との関わり」、「運動」、「知的刺激」の三点であることが既にわかっており、多くの科学者が動物の脳に構造的・機能的にポジティブな効果をもたらすことを立証しています。人間を対象とした研究でも同傾向の結果が見られ、これら三要素は人間の脳の健康維持にも重要だと言えます。

五大要素

 人間の脳健康に必要なこれら三要素に加え、私は「精神的安定」と「栄養」も大切と考えます。合わせて5つの要素(社会との関わり、運動、知的刺激、精神的安定、栄養)が、健康な脳を維持する生活の中核を成します。ここで強調したいのは、健康な脳を維持する生活とは年齢に関係がなく、脳の発達時期も年齢に関連がないということです。脳の健康維持は、一生かけて積極的に行うべきだというのが私の持論です。

 毎日新しいことや難易度の高い課題に挑戦し、豊かな環境に身をおくことで、いわゆる「脳の蓄積量」が増加していきます。「脳の蓄積量」とは脳に集積される神経細胞の量のことで、量が多ければ神経変性疾患(アルツハイマー症やその他の認知症)の発生時期を遅らせることも可能です。生存中はまったくアルツハイマーの症状がなかった人が、死後の解剖で初めて患者だったと判明した実例があるように、「蓄積量」が多い人は脳疾患の発病時期が遅くなるようです。

 脳が健康ならば、自分の脳と行動に自信をもって生きることができます。同時に、脳健康のための変化を自分で意識するようになります。以下、脳健康の目安となる基準です。

  • 脳の重量は、平均2ー4ポンド(908-1816g)
  • 脳が必要とするのは、心臓の鼓動一回で送られる血液量の25%
  • 脳の50%以上が脂肪分
  • 脳に新しく難易度の高い刺激を与え続けること

高まる脳への注目

 脳が持つ潜在能力が科学的発見を通じて明らかになると、米国文化そのものが脳健康に注目し、理解を深めるように変わってきました。健康に高い関心をもつブーマー世代に牽引され、今後アメリカでは個人も社会も行動が変わっていくでしょう。すでに変化の兆しとして、脳健康に関するマスコミ報道、知的刺激を与える新製品、生涯学習プログラムの増加と充実、脳健康の推進活動に対する資金投入などが挙げられます。

 実際にもっと大きな変化が見られるのは個人レベルかもしれません。人々は自分の脳という奇跡のような存在に、真剣に興味を持ち始めています。脳の基本について説明すると、何千人もの人々が熱心に耳を傾けています。人が自分の行動を変えるのは、変えることの理由と利点を理解したときだけです。万歩計をつけ始めた、苦労して食生活を改善した、といった体験談を聞くのは嬉しいものです。アメリカ人は健康なライフスタイルのための情報を待ち望んでいるので、健康維持のための時間や労力や出費を惜しみません。この勢いは、脳健康にも広がっています。

 生涯にわたって健康な脳を積極的に維持することは、有意義な人生を送るために欠かせません。楽しく、実践的な作業でもあります。八百屋の店頭やレストランのメニューを見ると、脳健康によい食べ物が紹介されていますし、学校では脳健康を推進するカリキュラムが採用されています。脳健康センター、携帯機器、コンピューターソフトなども普及しています。最終的に私がめざすのは、脳健康が国民的関心となり、家庭でも職場でも健康管理のひとつとして定着することです。

 人にとって最大の宝、それは自分自身の人生の歴史であり、人生史を作ってきた数々の経験ほかなりません。人は記憶力が衰えて思い出をなくすことを何より恐れています。私は人生の思い出をずっと持ち続けられるように、人々を応援していきたいと思っています。かけがえのない思い出をなくさないために、脳健康を積極的に維持していくことが何より重要です。若い世代に語り伝えなければならない大切な経験を、私達ひとりひとりが持っているのですから。



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