2009年10月28日 |
AARPマガジンの2009年9―10月号に、カナダの作家マーガレット・アドウッドの書いた「人生のレッスン―知恵がある人」という記事が載っています。
『知恵がある人』とは、何かを成し遂げた人たちの短いインタビューを集めたもので、アドウッドもこのビデオ・シリーズに参加しています。この企画の発案者は、内科医でダイバーでもある、ジョー・マキネス博士です。
以下は、記事の一部です。
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| 『知恵のある人』 |
私も何度か北極を旅しました。私は、彼の『知恵のある人』プロジェクトのルーツがここに、イヌイットにあるのではないかと思います。イヌイットは、人間が生きられる極限の環境で生活し働く人々で、ジョー博士が大切に考える特性を、非常にたくさん持っている人たちです。博士は、イヌイットがエルダーを尊敬する様子を見たに違いありません。そして、若さを強調する私たちの社会が、なぜ世代間の結びつきを失ってきたのかと考えたかもしれません。博士は『知恵のある人』を通して、イヌイットでない私たちに、エルダーの伝統を取り入れようとしているのかもしれません。
北極を訪れているとき、イヌイットのエルダーについてたくさ んのことを教えてもらいました。年を取ったからといって、必ずエルダーになれる訳ではないそうです。それは、他人から与えられる称号です。エルダーは、アドバイスを押し付けませんが、求められればアドバイスを与えます。「誰がエルダーか、すぐにわかりますよ」と言われました。「グループを見ていればよいのです。誰かが常にお茶を持っていく人が、エルダーですよ」と。エルダーが話すと、皆は聞きます。しかし、エルダーはたびたび話すわけではありません。
エルダーは、困難なときに何をすればよいかを、知っています。エルダーは以前に辛い時代を耐え抜いたことで、その知恵を得ました。「良い判断は経験から生まれ、経験は悪い判断から生まれる」と、私たちの古いことわざにもあります。
昔、特に過酷な環境下で平均寿命が35歳だったとき、60歳まで生きた人は若い人たちよりもたくさんの辛い時代を見て来たことでしょう。60歳まで生きた人は、危機に立ち向かう、より良いアイディアを持っていたでしょう。
昔の日本では、一定の期間を置いて、木造の寺を一度壊して、再建する習慣がありました。壊した寺とそっくり同じ寺ができるように、三世代の名匠を必ず雇いました。最も若い職人は見習いとして学び、中年の職人は寺の再建を一度経験し、2回の再建を経験した年取った職人は、他の二人を指導することができました。知恵を保つということは、求められたときに知恵を伝えるためでもあるのです。
今、危機にあると感じている人がたくさんいます。特に、裕福な時代しか知らない若者は、世界不況にショックを受けています。常に消費は善、家の価値は上がり続ける、金持ちや権力者は自分が何をしているかわかっている、など今まで信じてきたことが、一晩でひっくり返されるような事実を、若者はたくさん目にしました。現在の状況は前例がないというほどではないにしても、35歳以下の人たちはこのような経験をしたことがありません。
今こそ、辛いときの過ごし方を知りたい、そして知る必要がある若い世代に、私たちエルダー(知恵のある人)が、自分の経験を話すときかもしれません。
「こうやって1ドルを大切に使い、残った食べ物を再利用して、襟を裏返しにするの」と、エルダーは言うかもしれません。
もしかしたら、「人生で大事なものは、物ではない」、「冷静でいなさい。慌てない。出口は通り抜けられる」、「服を干して乾かせば、1セントもかからない」、「『私たち』は『私』よりも力強い言葉だ」、「人類は、以前にも辛い経験をした」などと言うかもしれません。または、簡単に「わたしたちには、できる」と言うかもしれません。
自分が話したいことはまとめられましたか?それを皆に話すときです。ただし、本物のエルダーのように、求められたときにだけ。
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マーガレット・アトウッド
カナダ、オンタリオ州オタワ生まれ。詩人、小説家。『昏(くら)き目の暗殺者』で2000年ブッカー賞を受賞。 |