2009年2月6日

シルバーズ・サミット

 2009年1月10日シルバーズ・サミット(Silvers Summit –Technology For Life)会議が開催された。その会場は、米国アリゾナ州のラス・ベガス。全米家電協会(CEA)が主催し1967年に始まり、毎年1月に開催されるこの業界最大の展示とカンファレンスの一大催し“消費者向け家電ショー(CES;Consumer Electric Show)”が、その新しいテーマとしてシニア・高齢化社会との技術の関係を探り、市場動向や課題を取り上げたのである。


会場のホテルから朝の静かなラスベガスの街並み。


 朝8時定刻に、このカンファレンスを企画したシルバーズ・サミットの共同プロデューサーのスーザン・エイヤーズ・ウオーカー女史の挨拶で、会議が始まった。スポンサー企業に謝辞を称し、“午前中はライフスタイル、午後は健康を中心として、多くのテーマを一日に詰め込んだ、速いペースで、休憩時間なしですすめるのでよろしく。”と、開会の辞。



展示会場のホテルの会議室、早朝8時開始15分前の会場。
最初はどれだけ集まるかと思いきや何時の間にか席は埋まる。



このシルバーズ・サミットの発案・企画者は女性二人。
ロビン・ラスキン(左)とスーザン・エイヤーズ・ウオーカー(右)。



小さなペンが付いたB5サイズのカンファレンスプログラム。



スポンサー各社の一覧。 当社はメディア・スポンサーとして協力した。





 最初の講演は、50年前にカリフォルニアの退職した女性教師が始めたAARP(1)。今や3000万人をこえる会員数となり、英語に加え、スペイン語での会報も発行すると言う。ブーマー世代(2)について巷で言われている俗説は、事実とずいぶん違うと説く。ブーマーは早くリタイアすると言うが、実際は62歳での完全リタイア者は、11%にすぎない。ブーマーは子供達が巣立って二人生活と言うが、2千300万人のブーマーが独り暮らし。ブーマーは年とともに社会活動を止めていくと言うが、平均的ブーマーは1人10個の自宅以外の活動に参加。さらにブーマーは、自己中心的世代(Me generation)と言われるが、介護をし、環境問題を考慮して買い物をする人(Green Consumer)であり、地元の商店を支える人達だと言う。


私の人生の大半をどう生きるか? これらにヒントや答えをという。


 「シルバー市場で金を掘り出そう」というパネルディスカッション。今年60歳になると本人が年齢を明かすマリー・フォーロング女史は、ブーマー世代のライフスタイルのトレンドを分析。




 マイクロソフトとヒューレットパッカードのコンピュータソフトウェア会社とコンピューター会社が壇上に上がる。2012年には65歳から74歳のパソコン利用者は倍増するので、いかにパソコンを利用しやすくするか(アクセシビリティ)に力を注いでいると力説。安全で簡単な操作をめざし、例えば、音声認識技術、見やすい画面、使いやすいマウスやキーボード、簡単なデータ保存方法などの向上を図り、シニア向けPCの提供を推進すると具体的例を挙げて説明する。


質問に答えるヒューレット・パッカードのマイケル・タケムラ氏(右)。


 65歳で10%以上の人が認知症にかかり、40歳になると半数以上の人が中年になって記憶の変化を感じると言い、さらに最近の研究で、脳の訓練(脳のエクササイズ)は、心身と脳の関係を健康に保ち、記憶力の訓練が認知力の改善に役立つことが分かってきた、というカリフォルニア大学記憶・老化研究センター所長の講演で、ブレイン・フィットネスの議論が始まった。すでにブレイン・フィットネスの製品を市場で販売している会社の研究者は、市場に出す製品に科学的な裏付けが示され、実際に使って有効であること、そしてなにより使って楽しいことが重要な要素だという。こういったブレイン・フィットネスを一般に進めるためにNPO団体を検討している人達も参加していた。




脳研究者、ストレス研究財団、脳訓練製品会社社長らのパネル討論。


 “シルバーライフを簡素化する”というテーマでは、高齢者の生活を容易にし、QOL(生活の質)の向上に役立つ研究が進んでいる事例として、カーネギーメロン大学の研究所で自宅での高齢者の行動をセンサーでモニターし動きを予測する研究や介護ロボットなどを紹介する。大学の研究成果に基づき製品化を予定しているプロジェクトもあり、産学協同がここでも進んでいる。さらに、難聴や耳が遠くなる人向けの新しい技術や製品、CESにおいて最高の製品に与えられる「ラスト・ガジェット・スタンディング賞」を受賞したばかりという心拍からストレス状態を知りストレス軽減を図る機器やトレーニングを提供するサービスなども紹介され関心が集まった。


カーネギーメロン大学の生活の質(QOL)技術センター。
インテリジェント(気の利いた)でアダプティブ(適応することができる)技術は、
皆の、とりわけ老齢者の生活の質を高める。


 午後の健康(ヘルス)の基調講演は、半導体大手インテルのデジタルヘルスグループの代表。「今の近代病院システムの原型は、19世紀のウィーンで生まれた。IT時代になり、センサーを使ったネットワークや個人を対象とする健康技術などが進んできているが、これからは、コンバージェンス(一つにまとめること)が重要になる。高齢者が増えるのに多くのパートタイムの人で介護がなされ介護のプロが不足していると言う高齢者人口と労働力のバランスの問題、医療保険・年金などのある人とない人の格差、インターネットや新しい利用技術や個人情報保護技術の開発など、こういった課題を解決して統合してコンバージェンスしていくことが重要になる」と強調する。


いろいろなことをコンバージェンスして、
新たな介護モデルを作るべきと提唱するインテル。


 “自分の家で過ごそう”というのは、洋の東西を問わないようだ。CAST(Center for Aging Services Technologies、高齢者サービス技術センター)は、一日あたりの介護費用が高額で生活の質も低くなる重大なケアよりも、生活の質も高くさらにかかる費用も少ないホームケア(自宅介護)に焦点をあてて研究を進めるという。健康で他人への依存が少ない生活、慢性疾患の管理、コミュニティー内の診療所と医師のオフィスをホーム介護の中心として、それらを実現・支援する技術開発を推進している。


深刻な介護、さらに介護施設でのケアよりも
自宅でのケアを支援することに注力すると言うCAST


 携帯電話を超えて、ワイヤレス(無線)技術を利用して健康生活を考えようと言う“ワイヤレスヘルスケア”も動いている。携帯電話の大手無線技術会社クアルコムは、ワイヤレスの市場も“コンバージェンス”であると提唱する。多様な顧客や市場のニーズで異なる種類のネットワークが共存しているがそれらの“コンバージェンス”、無線でパソコンなどを利用できるワイヤレスコンピューティングと家電との“コンバージェンス”、どのような状況でも使える同じアプリケーションのそれぞれが進化して“コンバージェンス”が必要と提唱する。ワイヤレス技術を利用した健康管理を推進する団体(コンソーシアム)を立ち上げる予定という。


確かに心拍は人間が発信する大事な信号。


 発足予定のオバマ政権が二日前の1月8日、医療情報の電子化を5年を目処に進めると表明したことに期待が集まり、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード、個人健康情報記録管理)に関心が高まった中、PHRのインターネットサービスを開始したマイクロソフトとグーグルの2社がパネリストとして並ぶ。司会者が、この2社が同じ席に着くことは珍しいと紹介。両社とも個人健康情報の電子化やインターネットでの利用が進むのには、時間がかかるだろうと意見が一致する。個人情報のプライバシーをどう取り扱うかという技術的課題もあるが、健康の間は病気予防や病気の話は楽しくないので、人々、特に若い人達の関心が低いこともこれから乗り越えなければならない課題だと指摘する。


グーグル社とマイクロソフト社のパネリスト。



マイクロソフトが参加者に配ったTシャツ。
「個人の健康情報をコンピューターなどに“Store”(格納)して鍵をする」
個人情報とITとセキュリティの3つを象徴している。


 健康・医療機器の相互接続の標準化を進める団体コンティニュア(Continua)には、世界中から主要企業177社をこえる参加となり、血圧計や血糖値測定器などの多様な健康管理機器や医療診断機器・医療機器を総合的に繋ぎ、健康データを相互に通信するための業界標準規格の策定とそれに準拠した製品やサービスを広げることが進められている。さらに個人向けテレヘルス(遠隔地の個人と通信回線を介してヘルスケアを行うこと)も実現し始めている、といくつかの事例を報告する。政府はどこまで支援するのか、個人データの持ち運びや異なったシステムでの互換性はどうなるか、PHR利用者に一人5ドルの補助を出すアメリカ大手企業の例も報告され、さらに消費者への利用刺激策など議論が弾んだ。


個人情報と健康管理さらにインターネットの活用で議論が弾む。


 最後の講演で、AARPは50歳以降の市場の大きさを言う。この市場で価値ある製品やサービスを創る上では、ブーマー世代に目標を絞りシンプルで利便性の高いものであること、いつでもすぐ簡単に動くこと(悪い体験を口コミなどで広げる傾向がある)、健康や健康な生活に関心が高く、さらに使って楽しくということが大事だとまとめる。実際AARPは、こういったことを支援するために、マサチューセッツ工科大学(MIT)やモトローラなどと共同で信頼できるコミュニケーション、ヘルスケアなどの研究を支援していくという。


ブーマー市場でいかに価値ある製品やサービスを創るか。


 9時間半におよぶカンファレンスは、予定通り午後5時半に終わる。同じホテルのCESの展示会場で簡単な食事と飲み物の交流の場がもたれ、一日が終わった。


展示会場に場所移し、ネットワーキングという人脈作り。



会場のホテルから夜のラスベガスの街を臨む。


  • 発表者が紹介したプレゼンテーションのスライドは、以下のサイトからダウンロードできます。
       http://silverssummit.com/
    このサイトを訪問し、Conference、さらにPresentations と進んで下さい。
    個人で使用することを条件にそれぞれのPDF形式のファイルをダウンロードすることができます。
  • さらに詳しくお知りになりたい方は、info@happy-elder.com までメールでお問い合わせ下さい。


1) AARP:1958年の創設の米国のNPO団体。50歳以上の人の生活を改善する支援をするということで、50歳以上の人は誰でも会員になれ、現在4千万人の会員を擁する。設立当初は、American Association of Retired Person(全米退職者協会)と言ったが、現在はAARP(エイエイアールピー)が正式名称。 http://www.aarp.org/ が公式サイト。

2) ブーマー世代:日本では1947年―49年生まれの約7百万人を「団塊の世代」というが、アメリカでのブーマー世代は1946年から1964年までに生まれた世代で、その人口約78百万人、アメリカ総人口の27%を占める世代を言う。


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